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本日快晴、揚々の天気である。日光は二人をやわらかい日差しで照らし、若干の眠気を誘った。
「メリケンさん、メリケンさん。私は決して、この身に誓って、あなたが嫌いというわけではないのですよ」 日本が一歩踏み出す。砂利を踏みしめて、乾いた音がする。母親が子供に言い聞かせるような口調で語りかけながら、日本は一歩ずつ、足場を確認するように、前に進んだ。説教を受け、癇癪を起こした子供に語りかけているようだった。 「ただ残念なことに太陽と星は同時に輝くことは出来ない」 寝る前に子供に本を読み聞かせるような、そんな慈愛に満ちた口調だった。穏やかで、彼の声はとても澄んでいて、手の中に赤く血塗れた刀がなければ、アメリカは彼を『お母さん、そんなこといわないで』なんて、冗談めかして肩を竦めたかもしれない。二人を取り囲む瓦礫や死体の山がなければ、これが戦争であることなど忘れてしまったかもしれない。アメリカの手の中には拳銃があり、それは真直ぐに日本の額を狙っている。変な気分だなぁ、とアメリカは眉をひそめた。口の中では砂をかんで、じゃり、と不快な音がなる。二人が立っているのは間違いなく戦場だ。二人は間違いなく争い、命を取り合い、敵対しているのに、二人の間の雰囲気は真昼の寛ぎのように平穏だった。標準を日本の額に合わせても、引き金を引く気があるかどうか聞かれたら、曖昧な返事でお茶を濁すことしかなさそうだ。何がしたいのか。問われれば、出る答えはこの戦いに勝ちたい。いや勝ちたいではない。勝たなければいけないのだ。日本は尚のことそうだろう。この戦いで負ければ、恐らく日本の明日は闇にまぎれて形もなくなる。 「私は掲げた日の丸の下に、あなたが支配するこの世界の暗黒を払わなければならないのです。そして赤く燃ゆる日輪で、あなたが支配する世界が、いかに、いかに欺瞞に満ちているかを、白日の下にさらさなければならない」 あんまりな口振にアメリカも呆れた。この世の悪行が、全てアメリカのせいであるとでも言いたいようだ。肩を竦めたアメリカに、日本は目を細めた。微笑んだわけではないが、軽蔑や苛立ちがあったわけではない。笑いたいのか泣きたいのか、怒りたいのか分からない表情に、アメリカの胸中に渦巻く不可解な感情がまた一段と鮮烈な色を纏って色を濁す。 戦いたくないのか。と聞かれれば、それこそアメリカはそれを笑い飛ばすだろう。そんなことはない。世界のヒーローが、悪の手先に鉄槌を与えずしてどうする。日本なら、きっと答えはしないだろう。聞かないでくれと、曖昧に微笑むだろう。 「もしもあなたが掲げたものが、星ではなく月であったなら、あるいは」 日本はその言葉を振り払うかのように頭を振った。戦いたくないのかい?アメリカはその言葉を飲み込んだ。その質問は実にナンセンスだ。二人は最早戦っている。戦火の中、家は燃えている。人は傷つき息絶えている。ここまで来て、戦いたくないと渋るのは、ただの臆病者だ。 「実に、ああ実に残念だ。痛切だ。やるせない」 日本はそういって刀を構えた。肖像画といわれても疑いようのない、微動だにしない構えは、質問の答えように思えた。ただ先ほどの日本が嘆きが、誰のためなのかアメリカには知る由もない。 |